作品一覧


それは平成最後の夏のことだった。


06- / 11- / 16- / 21- / 26- / 31- / 36-
01-05


生きていることは簡単だ。生きることに怯えている。生きてゆくことはとても苦しい。

ファクション
作者:天霧朱雀│小説
「T県、踏切で立ち往生したトラックと衝突…数十名が重軽傷」初夏、始発で学校へと向かうサチに、礼服の男が話しかけてくる。平成を生きる少女の語りに強く惹きつけられる、少し不思議な夏のお話。


長い爪が無意識にパーラメントの箱を叩いていた。「……あ。花火」

舞台袖のマクガフィン
作者:さきがみ紫檀│小説
結婚式帰りの夜、私はパーラメントを持ってベランダへ出る。それを迎える隣人の男。煙草の煙をまとい、麦茶を手に淡々と交わされる会話が心地よい。ご都合主義でも安直なハッピーエンドでもない、最後の夏。


職場のあるビルを出て歩き出したら海の匂いがした。

名前のない夏
作者:古月玲│小説
その日俺は電話一本で呼び出されて、旧友たちと母校の正門に集合していた。駅までの帰り道、久々に見る坂からの景色は。──夏の終わりの感傷。変わったもの、変わっていくもの、変わらないかもしれないもの。


「私は夢を視るの。私が関係している未来の夢」

クラスメイトの高遠さんはリアル指向の夢を視る
作者:鳥鳴コヱス│小説
高校に入学した俺が出会ったのは、前の席の女子、高遠さん。彼女は学校を休みがちでありながら友人に囲まれ、誰かの相談ごとや探し物について『まるで自分が見てきたかのように話す』のだ。


ここはたしかに平成最後の夏なんだ、と言えなかった自分をいつまでも悔いている。

ひび
作者:星宗介│小説
僕の働く店に時折やって来る男。美しい僕に嫌悪を抱かせる、その美しくない男は「来年の夏まで平成だよ」と言うが、その言葉に僕は。透きとおったビー玉の欠片を、僕は今日もかき集めている。


06-10


「正解ってなんだろうね」

正解
作者:佐宮 綾│小説
平成最後の夏、残暑の厳しい日。親友のリカが自殺したことを知った。わたしとエミリ、リカは、同じマンションで育った幼馴染だった。何が正しかったのか、わたしはどこで間違えたのか。


「暑い夏を吹き飛ばそうぜ!」

夏に轟け Rock'n'Roll
作者:十五夜美月│小説
TSUYOSHIこと、剛の参加する高校生バンド。デビューという夢に向かっての動画収録で彼らは浴衣を着てライブをすることにする。ただ、メンバーの一人、HIKARUには問題があった。平成最後の夏、なんてあまり関係のない、だけど存分に熱い夏。


お互いがお互いのことをどれだけ大切にしていたいかを、思い知った。

はじめてのなつ
作者:斉木緋冴。│小説
エミと宗佑は、高校二年生からずっと美化委員を押し付けられている。クラスで「電信柱とセミ」と呼ばれるも、反論できないほど穏やかで真面目な二人は、実は付き合っていて。


夢ではないと、たったそれだけでも誓ってくださいますか。

夢花火
作者:雨伽詩音│小説
この線香花火の命が尽きればあなたと過ごした日々も夏とともに逝きましょう。──「あなた」へ語る、流れるようにうつくしい約400字。線香花火を焚きながら、あなたの歌声が夢ではないかと、尋ねずにはいられない。


(夏のせいだ。……こんなの、全部)

最後の夏をとじこめて
作者:空野わかな│小説
キャンバスに描かれていく風景だけが、この夏のひとみのすべてだった。夏休みのある日、美術室でひとり絵を描く内気な少女・杉村ひとみのもとに、クラスメイトの萩本慎太郎が突然やってくる。毎日訪ねてくる萩本に、二人はだんだんと距離を近づけていく。


11-15


君と行けるのなら、どこだっていい。

それは平成最後の夏のことだった。
作者:烏代 杳│小説
「え、何でこんな暑いのに遊びに誘ったの?」「遊びたかったから……?」「しかもそこ疑問形なの? え? 嘘でしょ?」高校2年生、遊び盛りのあたしたちは、『平成最後の夏』を合言葉によく遊びに行ったし、遊びに誘われていた。


一滴垂らしたひまわりが、太陽と面向かって生きている。


作者:剣持みけ│小説
『ヒマワリ病』治療薬はなし。感染経路も不明。症状は脱水。過眠。めまい。その他。夢に見る一輪の花にちなんで、こう名付けられた。京乃が発症した謎の病はどんどん症状を深刻化させていく。心配した幼なじみの提案で、二人はヒマワリを見に行くことにした。


でもね、流歌。私は何もかもいやだった。

天翔けるグラツィア
作者:真北理奈│小説
ピアノが好きで楽しく弾いていた瑠花は、一番大好きだったブルグミュラーを、流歌に弾かれて衝撃を受ける。自分に流歌のような旋律は紡げない。そうして、瑠花は逃げるようにして教室をやめたのだ。


まだ君のことが好きだ、平成最後の夏だねとか笑いあいたかった、

Hate me in the summer.
作者:藤原蛍│散文
平成が終わっても世界が終わっても、君だけを想い続ける僕のことをどうか恨んだままでいて欲しい。──「僕」が零す、透明さにどこまでも引き込まれるような愛の話。


三年に一度人が死ぬ。平成最後の夏は、残念なことに三の倍数だ。

夏の影
作者:八重土竜│小説
三年に一度、私の周りの人がいなくなる。中学三年生の夏も、高校三年生の夏も、大学三年生の夏も。「きっと今年も何かが起きる」と憂慮する私に、一週間ぶりの彼は笑った。


16-20


どうしても、どうしても水が怖い。そんな自分がもどかしい。

溟海よりきたる
作者:神儺│小説
小学生の時の事故で、陸はいとこを海で亡くした。以来、溜まっている水が恐ろしくて仕方ない。それを克服したいと思いつつ、友人に誘われて訪れた夏祭りで目にしたのは、幼いいとこの姿だった。


「あちい。あたり屋行ってアイスキャンデー買おうぜ」「賛成」

夏、平成、「あたり屋」
作者:ひざのうらはやお│小説
酷暑日、砂漠みたいな暑さのなか、ぼくと寛治はアイスキャンデーを買いに「あたり屋」へ向かう。やっと辿りついた二人を、店主であるおばあちゃんが迎えるのだった。


次の夏を迎えることなく、すべての平成が死んでいくだろう。医者はそう言うのだ。

弔いについて
作者:不可思転│小説
我が家の平成の様子がおかしいことに気がついたのは、盆休み初日のことだった。今までは勝手に元気でいたのでどうしたらよいか慌てるが、家族や友人たちはさほど気にした様子もない。


ねぇ、平成最後の夏だけど。去年もこうしてどこかに出かけてはしゃいでクタクタになって帰って、きっと来年もそうだよね。

今年の夏の終わりも
作者:花音│小説
平成最後の夏だから、あなたと特別な思い出が欲しかった。だから彼に提案をしたのだ。日帰りの、夏のデートのお話。


今度こそ言いたい「おかえりなさい」

来年の夏こそ
作者:鶏林書笈│小説
あれから、何年経っただろうか。まだ昭和だった頃にいなくなってしまった娘は、今年も帰ってこなかった。拉致被害者家族の思いを400字あまりで描く。


21-25


この景色には、夏のこの時期にしか辿り着けない。

夏がいく
作者:せらひかり│小説
去年と同じように自転車に乗って、アイスと駄菓子を買い込んで祖母の家に行く。やさしく迎えてくれた祖母はしかし、もうここには来るな、と言うのだった。


高校生活最後の夏休み。でも、私にとっては、初めての夏休み。

願いの先
作者:狐塚あやめ│小説
友人と夏祭りに行く約束をした厳島苑は、鳥居の前で待ち焦がれていた。待つ間の暑ささえも夏の思い出になる。友達と遊ぶことがこんなに楽しみになるなんて、あの頃は思えなかった。


「──いいよ。じゃあ、そばにいよう」

そこから、あなたと
作者:こうあま│小説
「……もう、今日が最後でいい」ナオが声に出してから、コウと過ごすようになって数か月。互いの存在と音楽を傍らに置いて、日常のあいまから見える「底」――ごまかしきれない自己嫌悪や厭世とともに過ごすふたりの、「最後の夏」の話。


「今はまだ無理かもしれないけど、元気、出しなよ。昭和生まれ同士、頑張ろう」

夏の終わりの夜の夢は
作者:たつみ暁│小説
「ねえ、あたし、キレイ?」夜道、不意に背後からかけられた懐かしいフレーズ。しゃくりあげながら振り返れば、夏なのにコートを着込みマスクをした黒髪の女性が仰天した様子で私を見つめていた。



🎈
作者:いろり。│画像
夏の欠けらたちを重ねて、浮かべて。思い出深い写真たちを加工、コラージュした作品。褪せようのない夏の色に魅せられてください。


26-30


この家は、少し変化しているのかもしれない。数年ぶりに帰ってきて、僕はそれを感じ始めていた。

近くて遠い街
作者:梔子花│小説
一時間あまりで来られる街に、僕はもう数年帰っていなかった。しばらくぶりの帰省、実家で父と双子の妹とお盆を迎えながら、僕は思いを馳せる。


「昔は四季は平等だったけど、今は夏だけがぶっちぎりで特別。次点で春」

2018年8月31日
作者:穂高絢乃│小説
「今までで一番思い出深い夏選手権~」「くだらなっ」「先攻後攻どっちがいい?」「ええ……参戦したくない……」蝉が鳴くなか、二人の会話は続く。


「平成最後の夏の約束ですよ」「ふふ、意味を持っちゃった」

夏、捨てたものと拾ったもの
作者:藤原湾│小説
楽しいという感情を持てない「私」と、いつも楽しそうに絵を描く巾木。あまり交流のなかった二人は夏休み前日、言葉を交わす。平成最後の夏だって、これから何度も来るはずの夏のうちのひとつだと思っていた。それでもそこに置いていきたいものがあった。


だからあの星を瞳に宿したまま、私の言葉に陰らせて、大人になって見せたのだろう。

うたかたの青い夏の日思い出す僕は/私は息をしていた
作者:深山白│短歌+小説
目眩のしそうな暑さのなか、僕は田舎の駅に降り立った。そこで出会ったのは、白いワンピースに黒髪のうつくしい女性。久しぶりに会う遠い親戚の彼女は、僕と同じホテルをとっていた。


平成の蝉は死んだ
作者:困惑│漫画
「平成に生まれて平成と一緒に死にたかった」赤い唇に赤い爪、赤いドレスを纏った女性が言うのを眺めながら、僕はグラスを傾ける。


31-35


「特別なことするの、あんま好きじゃないんですよ。疲れるじゃないですか」「疲れるよなあ。でも何かしないと、もったいない気がするんだよな」

lycopersicum
作者:佐々木海月│小説
五連休ある盆休み。皆どこかに出かけているのだろう、会社の独身寮はすっからかんだった。唯一残っていた後輩と駅前で夏期限定のトマトラーメンを啜る。


夏終わる、片道切符で旅に出る
作者:ミズキカオル│イラスト
少女と少年は、暮れなずむなか電車に揺られる。夏の終わりにたしかに覚える感傷、どうかこの時間がずっと続きますようにとつい願ってしまうような作品。


夏の空はペンキを塗りたくったように真っ青で、もこもこと湧き立つ入道雲はやけに白く、まるで精巧な絵のようだった。

平成の僕と平成のおじさん
作者:あじさい│小説
道を教えてほしい。そう話しかけてきたおじさんに、小学生の僕は容赦なく防犯ブザーを鳴らした。そんな出会いから始まって、片付けを手伝うという名目で、おじさんの祖母の家に入り浸るようになる。これは平成最後の夏の日。平成生まれの僕と、平成生まれのおじさんのお話。


最後の夏よ!僕を助けて
作者:月島あやの│漫画
平成最後の夏の日、昼間。俺たちは相変わらず、引きこもってゲームをしていた。二人の空気感が夏になじむ、「幸せになるだけの」漫画。


「陽炎のような者だ。まあ、たいした人間ではないよ」

夏は人の夢をみる
作者:汐木カチヤ│小説
ある日、僕は彼女と向日葵の咲く一角で出会う。白い入道雲、熱気をはらんだ風、潮騒。何をしたっていい、輝かしい夏がそこにあった。ずっと終わらなければ、と思ってしまいそうなほどの。


36-38


またねって過ぎ行く時間に手を振れたなら。

後顧の憂い
作者:うさぎ少女│小説
猛暑が続く中、家に居ても落ち着かなかったので、海まで出向いてきた。人混みから離れた岩の上で海を眺めていると、「ねえ」かけられた声に、昔からの旧友と会話するように、着飾らない声色で応える。


「死にたいわけじゃないのよ。ただ、冬眠したいなって思うだけ」

冬眠、遠雷、秋を待つ
作者:秋助│小説
四年前。菜月はマンションの六階から飛び降り自殺を図った。それから、花もほとんど咲かないような冷夏が続いている。この世界から夏は消えてしまったのかもしれない。


この夏で何度お別れしましたか。(「夏の生活 国語」問七)

どの夏も行方知れず
作者:翳目│短歌
「八月三十二日を探していたら、九月になっていました。」終わってゆく夏を、思いをすべる三十一音でなぞる。静かな感傷のこころにせまる連作短歌、20首。


  


熱気を孕んだ風。足元をさらう波。揺れる風鈴。
喉を流れるラムネ。
少しの清涼感をもたらすアイス。
脳裏を過ぎる向日葵。

全てを覆いつくすような、大輪の花火。


何てことのない、去年と同じはずの夏に、なぜか何かがあるような気がしたのだ。


全部忘れてくれていい。
けれど本当は、ひとつも忘れてほしくない。




Good bye,summer.




ご参加、ご高覧、ありがとうございました。


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