三度目の告白
「あのさあ」
ベンチの隣に座る彼がおもむろにそう言った。私は彼の表情を見、そして視線を逸らした。
「三度目の正直、って言うじゃん」
あれって本当だと思う?
私は手の中の教科書を、勉強する気もないのにじっと見つめたまま答える。
「さあ、どうだろうね。試してみたら」
隣で彼が黙り込む気配がした。こういう時に限って時間はゆったりと、もどかしい位に緩慢に流れていく。
私は相変わらず教科書に目を向けたまま、口を開いた。
「でも、二度あることは三度あるとも言うよね」
彼が言葉に詰まる。今の反論はなかなかに効いたようだった。そうして再び沈黙。
目の前を、犬を連れた人や子どもが通り過ぎていった。今日は日差しも暖かいためか、この公園には人が多い。
「……まあ、いいや」
やがて彼は何か吹っ切れたようにそう言って、
「三度目が駄目なら四度取り組むまでだよな」
「相変わらず、懲りない」
思わず顔を上げて彼を見ると、いつものように笑っていた。私を何だか落ち着かない気分にさせる、いつからか直視できなくなった笑みだ。
「……懲りない上に、ずるいよね」
「うん?」
「何でもない」
頭を振る。
彼は私の名前を呼んだ。それから首だけでなく上体を捻り、こちらに向き直る。
ああ、逃げたい。ここから逃げ出したい。
この状況にはとても既視感を覚える。実際に経験しているのだから当たり前か。しかも一度ではなく、二度あったから、その感覚も二倍のようなものだ。
幼なじみという彼との関係は、とても居心地が良いものだから、それをわざわざ壊す必要なんてどこにも……どこにもないのに。
「しつこいって言われるかもしれないけどさ。俺は、お前が――」
「三度目の正直」か、「二度あることは三度ある」か。
頭の中でぐるぐると回る漢数字にくらりと眩暈を覚えながら、首を横に振ろうとする自分を何かが留めていることに気づく。その何かの正体を私は知らない。
彼の名前を呼ぶ。訥々と喋っていた彼が私と目を合わせる。
開かれた自分の口から出てくるだろう三度目の言葉は、自分にも予想がつかなかった。
「一から十のお題」(提供元:追憶の苑さま)